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Words Evaporate on My Tongue

Translation, books, films, and Oxford commas.

翻訳百景

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実務翻訳者になって一年。初心者とは言えないがベテランには程遠く、翻訳の面白さに夢中になりながら、悩みも増えてきた。そんなタイミングで、この本に出会えて本当に良かった。最初の数ページを読んだだけで、なんだか泣きそうにさえなってしまった。ジャンルは違えど、翻訳について語られること全てがすっと腑に落ちてくる。自分は一人ではない、自分の考えは理解されている。翻訳を使命とし、丹念に丹念に言葉を紡ぎだして、名作を世に出してくれた人々がいる。そう感じられたことが有り難かった。今、私は孤独に陥っているから。

最近は特に悩みが多かった。社内翻訳者だからこその制約に悩み、翻訳を超えた要求にどう応えるか、自分を納得させるのが難しかった。ポジティブに考えれば、翻訳ならとにかくなんでも良かった一年前より成長した証拠だと思う。自分が翻訳をどう捉え、どう向き合っていきたいのか、自覚が芽生えてきたのだ。

それを実現するには、相当の訓練と、相当の覚悟がいるなあ。でもたぶん、映像翻訳の学校を終え、実務翻訳デビューから一年がたち、悩みを抱えながら、文芸翻訳の授業を受けようとしている、このタイミングや巡り合わせにも、何か意味があるのだと思う。いつかのトロントで、あなたは翻訳者になれると言われた時みたいに。

 

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後ろ髪

去年タイミングが合わず諦めた文芸翻訳の講座が受付中なのを知り、値段も確かめずに即申し込み。こういう時だけ財布がゆるい。映像翻訳に本腰入れる前に、文芸翻訳での適性を確かめたかったのもある。二兎を追う者は一兎をも得ず。後ろ髪引かれているんである。

 

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夢じゃない

かつての翻訳勉強仲間と2年ぶりの再会。お互いちゃんと翻訳者になっていた。偉いぞ私たち。

知らない業界の話も聞けたし、自分の翻訳についても振り返る良い機会だった。死ぬまで翻訳をやりたいといって「私も!」と同意してくれる仲間が、私にはいたんだな。ラッキーミー。ラッキーユー。不安もあるよ。まだ駆け出しだから当然だ。

翻訳を敷居の高い仕事だと言う人がいる。トライアルに落ちるのがこわい。受かったら受かったで仕事がどうなるのか不安だ。自分の実力に自信がない、などなど。言い出したらきりがない。ハードルを高くしているのは案外自分なのだ。その努力は何のためにあるのか、と思う。一歩を踏み出さなくちゃ。夢じゃない、叶う目標だよ、自分を小さくしてはいけないよ…そう言ったら、彼女は泣いちゃった。

私は臆病で自信もないけど、壁には当たって砕ければいいと思っている。努力しよう。チャンスを掴める人でいよう。好きな仕事をしよう。明日も良い翻訳ができますように。

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A Little Life: A Novel by Hanya Yanagihara

かれこれ4カ月かけてペーパーバック×Audibleで読んだ本「A Little Life」。読み始めたきっかけは、私の好みに合うことが多いブッカー賞にノミネートされていたこと。著者のHanya Yanagiharaという名前が気になるが、父がハワイ出身のアメリカ人、母は韓国出身らしい。最初は楽しく読んでいたのがだんだん苦しくなり、中盤になると10ページごとに涙が出て中断せねばならず、遅々として進まなかった。というのはあくまでこちらの涙腺の都合で、本自体の完成度は極めて高い。著者の知性と古典的美しさを感じさせる大作である。

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A Little Life by Hanya Yanagihara — Reviews, Discussion, Bookclubs, Lists

舞台はニューヨーク。大学時代からの親友4人組の人生を、それぞれのバックグランドを交えながら描いていく。私を10ページごとに泣かせた犯人、そして世界の人々を絶望と悲しみの渦に投げ入れているのは、特に中心的に描かれるジュードという青年の過去、彼のアイデンティティ、自己否定、悲しみとの向き合い方である。

ジュードは自分の過去を話さない。話せば人が自分から離れていくことを恐れている。自分の過去が人を不幸にすることを知っている。そんな自分に価値がないことを知っている。悲しみは人と分け合えるものではない。悲しみは自分の体で分解するものだ。分解できない分だけ、肉体的な傷が増えていく。時間が何も解決してくれないことに、彼は苦しんでいる。記憶は曖昧になるばかりか、どんどん鮮明さを増していく。過去は追いかけてくる。親友に秘密を打ち明けることはできない。打ち明ける言葉を持っていない。人を心から愛することはできても、人を心から信じることはできない。自分は幸せに値しないからだ。そういう幸せは、自分のためにあるものではない。自分にこんな幸せがあっていいはずがないから、自分で自分を罰する。それが彼の命のバランスだ。

ジュードの人生は極端な例でも、この悲しみには覚えがある。大勢の読者がそう感じているはずだ。こんな悲しみと絶望の詰まった720ページにも及ぶ物語が、ベストセラーになる。それだけ世界には悲しみがあふれているのかと思う。

 

“...because to be alive was to worry. Life was scary; it was unknowable.”

「…なぜなら、生きるということ自体が、不安を感じるということだからだ。人生は恐ろしく、不可知の存在だ。」

 

人の悲しみや不安を天秤にかけることはできない。愛されて育った少年が、社会の底辺に落ちる。金に苦労したことのない青年が、やり場のない不安にさいなまれる。恵まれた家庭環境や金銭的な余裕は、必ずしも不安の大きさに比例しない。それを一番良くわかっているのは、皮肉にもジュードだ。

愛する友人たちに想いをめぐらせながら、彼はこう言う。

 

“You won’t understand what I mean now, but someday you will: the only trick of friendship, I think, is to find people who are better than you are—not smarter, not cooler, but kinder, and more generous, and more forgiving—and then to appreciate them for what they can teach you, and to try to listen to them when they tell you something about yourself, no matter how bad—or good—it might be, and to trust them, which is the hardest thing of all. But the best, as well.”

「今はわからないかもしれないけど、いつかわかる日が来る。友だちを作る唯一のコツは、自分より良い人たちを見つけることなんだ。頭が良いとか、かっこいいとかじゃなくて、もっと優しくて、心が広くて、寛大な人たち。それから、彼らが学びをもたらしてくれることに感謝する。自分のについて何か言われたら、それがどんなに悪いことでも良いことでも、ちゃんと耳を傾ける。そして、信頼すること。いちばん難しくて、いちばん素晴らしいことだよ」

 

しかし彼には受け入れられない。寛容さ、受け入れるということ(acceptance)は本作の大きなテーマの一つ。ジュードを取り囲む人々。それぞれに痛みを抱えながらも彼を愛し、守ろうとする人々。受け入れ、受け入れて欲しいと切望する人々。彼らがもたらすかすかな光にすがりついて、読者は物語の先へと進む。

発売は2015年だから、早ければ今年か来年にでも翻訳版が出るかもしれない。たぶん私には読む勇気がない。自分の中で鮮明なイメージができていて、それが上書きされてしまうのも怖い。これを翻訳する人は、とても心の強い、エネルギーのある人だと思う。私のような泣き虫は悲しみの渦に飲まれて、言葉に変わる前に溺死してしまう。

映像翻訳Web講座 修了

映像翻訳の最後の課題が終わった。修了まで結局4年もかかったけど(最短22カ月のコースなのに)、得たものは大きかったと思う。

その4年間にはいろいろなことがあった。映像翻訳の勉強を先に始めたけど、実務翻訳者になったのが先だった。映像翻訳が実務翻訳の入り口になり、今度は実務翻訳が映像翻訳の支えになった。

普段の仕事で思いがけず字幕やナレーション翻訳を頼まれた時も、慌てず対応できた。私が仕上げた台本をプロのナレーターさんが読み上げているのを聞いて、どれほど嬉しかったか。

通信教育で続けたことには、メリットもデメリットもあった。先生とリアルタイムの会話ができないのが一番のデメリットだったけど、やる気につながるような応援コメントを欠かさずつけてくれる先生もいた。あの課題量+通学では、とても仕事と両立できなかったと思う。精神的な余裕も、通信だから維持できた。

これから映像翻訳でどうするかは白紙。学校が終わったというだけで実力不足が目に見えているので、勉強の継続方法を考えないといけない。とりあえずは学校のトライアルや課外講座を通じて、プロへの道が閉ざされないようにしたい。

 

映像翻訳Web講座|翻訳|アルク

 

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ほんやく検定

A「子供がインフルエンザになっちゃって」
私「あら、Aさん大丈夫だったんですか?」
A「うん、僕一回もインフルエンザかかったことない」
私「え? 生まれてこのかた?」
A「うん、たぶんレセプターが欠損してるんだよね」
私「え!? レセプターが欠損!!?」

 

昨日は日本翻訳連盟のほんやく検定。狙うは2級、分野は医薬。1級合格率は1パーセントという大変難易度の高い試験であるからして、自分の知らないエリアが出ると本当に手に負えない。試験開始5分前に両手をあわせてオンコロジー出ろ…オンコロジー出ろ…と祈っていたらずばりオンコロジー。しかも、EGFR変異陽性非小細胞肺がんの分子標的薬について。ラッキー、でも、惜しい。ギリギリ私の守備範囲から外れている(というか、私の守備範囲が狭い=経験が浅いんである)。前回よりはるかに簡単だったけど、あと30分あればなんて悔しさが残る。今回で3回目の挑戦であるが、毎回試験後の反省が深くなっていく気がする。

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数字の意味

インスタグラムでフォローしていた女の子が亡くなった。4歳で、非常に稀な悪性脳腫瘍だった。生後わずか数カ月で発症し、短い人生の大半を手術と化学療法と放射線療法に費やした。もう緩和療法に移るしかないという時になってようやく、新しいがん免疫療法の治験に組み入れられた。2回の投与の後、その子は死んだ。間に合わなかった、と思った。治験に参加するチャンスをやっとの思いで掴んだのに、家族はどんなにか無念だろう。

臨床試験に関する文書を訳すとき、目の前に並ぶ数字はただの数字ではない。全生存期間や奏効率の裏にあるのは、治療のかいなく死んでいった患者さんやその家族の無念かもしれない。絶望かもしれない。たとえ1日でも長く、家族との時間を過ごせた喜びかもしれない。明日への希望かもしれない。その数字を、新薬の承認を待ちわびる、今日の患者さんが読むのかもしれない。私はそれを忘れないようにしよう。

 

The most beautiful wings for the most beautiful soul.
May your soul rest in peace, Ellie.
https://www.instagram.com/prayersforellie/

 

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